2024年3月23日土曜日

幻のレンズ

 常連のお客さまから電話が。

商品についてのお問い合わせで二、三やり取りした後、

「ところで、ニコン繋がりでちょっとうかがいますが」

「はい」

「昔、もう大昔ですが、私がFフォトミックを買った時に、新製品のチラシというかパンフレットというか、そんなものを貰いまして。今度こういうレンズも発売しますよというような。で、そのレンズというのが、GNニッコールのような軽量で薄型の標準レンズだったんですが、ご存知ないですか?」

「うーん・・・その時代でそういうレンズというのはちょっと思い当たるものが無いですね。GNニッコールではないんですよね?」

「ええ、GNとは違うんです。5cmのf2.8だったかf3.5だったか・・・そんなスペックだったと記憶してるんですが、チラシをもらって、ああ、こういう小型軽量のレンズが出るのかと。ところがその後いくら待ってもそのレンズが出ないんです。それで仕方なくGNニッコールを買ったんですから」

「となると、製品が企画されて事前に宣伝も打ったけれど、事情があって発売されなかったとか、そういう事でしょうかね・・・すみません、私には分かりません」

「そうですか・・・なにぶん昔の事なので、私も時々思い出しては、あれは本当だったのかなあ、夢かなにかを取り違えたのかなあ、なんて思って今に至ってるんです」


そんな話をして電話を切ったものの、気になったので調べてみた。すると、2018年のニコンミュージアムでの企画展について報じたある記事に行き着いた。

そこに、展示されていたあるレンズの画像と紹介記事があった。

Nikkor-Q Auto 5cm/f2.5(1960年)

きっとこれだ。

ニコンミュージアム企画展・幻の試作レンズたち


翌日、お客さまへ委細を連絡。

ニコンFが発売されて間もない頃のメーカーとユーザーの間の、記録にはのこらない情景。その一幕をチラッと観ることが出来た貴重な経験だった。


ところで、この幻のレンズのスペックには見覚えがある。

NIKKOR-S Auto 5.8cm/f1.4

  発売初年、1959年製の個体 貼合部が1か所しかない6群7枚の変形ダブルガウス型。 残存収差から開放では軟らかな描写となりますが、ピントの芯は明確。渋く重みのある色表現と近距離でのデフォルメされた遠近感が特徴です。 G4裏面、G5表面にコート傷あり。 整備済み。 ・ニコン ニ...