2024年8月24日土曜日

不思議な旧エルマー

変わった旧エルマーが入荷しました。

整備中

このエルマーは、クローム時代になってからライツで交換式に改装されたもので、レンズバレルの特徴から3,000番台(1926〜27年)かそれ以前のかなり古い時期のものと思われます。思われる、というのは、このエルマーのバレルには通常記されている製造番号が何処にも見当たらないからです。

通常、旧エルマーのバレル部には製造番号に加えて数ヶ所に管理番号が彫られています(旧エルマーの後期には管理番号のうち2つは機械刻印に代わります)。ところが、この個体には管理番号以外はなにも彫られていません。

また、このエルマーは実焦点距離の最も短い3番鏡筒であるにも関わらず、より焦点距離の長い1番鏡筒よりも全長が長く、一見するとまるで普通のクロームエルマーのように見えます(ただし、4・5番鏡筒や、長鏡筒の6・7番よりは短い。0番鏡筒の個体は現在在庫品の無いため比較できず)。

左:1番鏡筒、右:今回の入荷品

鏡筒が長い理由は、バレルが通常より前進した位置にあるからで、そのため、鏡筒にバレルを収めた状態では位置決めネジは終端部に半周分しか掛かりません。
バレルが定位置にある状態でネジ孔が半分見える

こうした構造上、この個体ではバレルを緊締するリングに位置決めネジの条の残り半周分が切られています。

クローム仕上げの0、1、3番の鏡筒は、後年の改装時にライツで新造されたものです。その3番鏡筒がわざわざ全長の長い仕立てで造られているというのは、このエルマーが実焦点距離48.6mmでありながら、通常よりも長いバックフォーカスを持っている事を意味します。

このような変わった仕立てながら、この個体は至近から無限までピントが出ており、距離計連動も3番鏡筒の繰り出し量と合致しています。バレルと鏡筒の整合性にも不審点は見当たらない訳ですが、では何故こうした仕様なのかというと、現時点ではまったく判りません。

3群部(中央)の枠に反射防止用の同心円状の段差が切られていない。こうした仕様の個体を見るのも初めて

左:戦後に改装された旧エルマー(1番鏡筒)、右:今回入荷した旧エルマー


これまで新旧ともに様々な来し方のエルマーを見てきましたが、見るほどに撮るほどに底深いレンズだと感じます。

旧エルマー備忘

 Lマウント仕様に純正改装された旧エルマー(1926〜28年にかけて製造された、ゼントリンガー工場のガラスを採用していたごく初期のエルマー)で、これまで当店で扱って来たもので記録してきた範疇においては、1本の例外を除くその他すべての個体に共通の番手のナンバーが刻字されていた。 こ...